九月は休みの日が多く、探険好きのジュンちゃんは浮き浮きしてしまう。
伝統工業を勉強した時に探険できなかった、津軽塗の仕事場や津軽焼きの窯場(かまば)など、行きたい所がたくさんある。
「伝統工業ではないらしいけれど、ブナコなんかはどうやってつくるのか一度見てみたいなあ。なんでも細い板を巻いて造るということだよ」
夕食の時、お父さんが言うのを聞いて、みんな首をかしげた。ブナコというのがよくわからなかったのである。
「ブナと言えば白神山地にある木でしょ」
お姉さんのユミちゃんは、去年、森林と環境の勉強で白神山地のことをいろいろ調べたらしい。ブナを使うと、森林破壊になるのではないかと心配していた。
ジュンちゃんは、お父さんに頼んで一緒に工場を探険に出かけることにした。
ブナコの工場は友達のエミちゃんの家の近くにあった。外から見ると建物はとても古くて、物置ぐらいにしか見えない。しかし、内部は広く、柱の骨組みなどのつくりはとてもしっかりしている。それもそのはず、ここは弘前市に第八師団がおかれた頃「厩舎(きゅうしゃ)」として建てられたものだそうだ。工場責任者の倉田さんが、親切に工場内を案内して説明して下さった。
倉田さんは二十代の頃から、この工場で職人の人たちと一緒になってブナコづくりに取り組んでこられた方である。学校の一階のように向こう側が見えないくらい、廊下が長く続いている。ブナの薄板がたくさん積み上げてある材料置場から、ブナコ造りの工程に従って順に歩きながら見学していく。
説明を聞いていると倉田さんのブナコづくりにかける情熱がひしひしと伝わってくる。
材料はブナの木を「かつらむき」にして作った0.9ミリメートルの薄板を使う。それを底板に合わせ巻き上げる。
それから湯のみ茶わんを使い、巻き上げた板を押し出してブナコ独特のカーブのある側面を作るのである。
ブナコの特徴は、側面が上の方に向かって丸味を帯びているところにある。お盆などの側面をこのように作るのは、実は大変難しいのである。普通に考えるとある程度厚みのある板を用意して、中をくりぬくという方法である。ところが、これだと彫ったあとの「クズ」が役に立たずただ捨てられる。材料のむだ使いである。ブナコにはこれがない。また、ブナの木が一年間で成長する量を合わせると、十二万平方メートルにものぼる。
「これらを大切に使っていけば、ブナコづくりは決して自然破壊につながらないのです。」
倉田さんは、ジュンちゃんにとても大事な話をして下さった。
今では東京のほとんどのデパートで展示されているということだ。関東地方では津軽塗よりよく知られているかもしれないという話を聞いて、ジュンちゃんもお父さんもブナコのことがとても好きになった。
ジュンちゃんは、「ブナコづくり」を図工の時間にやってみるように、先生にお願いしようかなと思った。